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乙女と正治
コンビニに立てこもった男たちが人質を集めて最初に行ったのは、選定だった。
まず男性の従業員と客を解放した。その後泣きじゃくる子供も解放し、店内には女性従業員一人と女性客二人が残される。三人は入り口から対角線上の、最も遠い場所に移動させられ、座ることを強要された。
そして犯人たちは覆面を外した。
「やっぱ覆面って熱いな。汗出てきちまう・・・。俺は田中だ。とりあえず、お前ら順番に名前を言え。自己紹介だ」
銃を突きつけられ怯える女性たちにそう要求したのは、またも大柄の方の男だった。黒い刈り上げ頭をしており目が鋭い。
田中の言葉を受け、最初に従業員が話し出す。
「い・・・千穂です」
千穂は茶色い髪を後ろで一つに束ねた、色白い女性だった。ピアスとネックレス、ブレスレットをしており、やや派手だ。
彼女が震えながら応えると、少々小太りで眼鏡を掛けた女性客が続く。
「瀬野幸子、です」
「千穂に幸子ね。ああ、あとお前は愛だっけ?」
先程子供を守るべく盾になった際、子供に呼ばれていた名前を覚えていた田中が言う。
肩より少し長いストレートの黒髪の女性だった。
「はい・・・」
愛はゆっくりと頷いた。
「愛に幸子に千穂か。あっちは伊東だ」
田中は共犯の男を紹介した。伊東は田中とは違いひょろりとした男で、やや明るめの茶髪だった。紹介された伊東は「どうも」と会釈する。一見人懐っこそうだ。田中は銃を見せつけるように持っているが、伊東は右手にナイフを持っているだけだった。
「俺たちはお前らに危害を加えるつもりはねえ。大人しくしてれば無事に帰す。まずは持っている携帯電話を出せ。千穂って言ったよな、お前も念のため持って来い」
「ご、強盗なんてしてもすぐに捕まるわ。馬鹿なこと考えないで自首した方があなたたちのためよ」
幸子がびくびくしながらも田中と伊東に告げる。が、彼らは幸子の言葉を鼻で笑った。
「強盗じゃねえ。俺たちの目的は自殺することさ」
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