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もうすでに初対面という壁を越え、
同じ芸術の道を志す同志を見る目で、
彼は長谷川に心を打ち明け始めた。
「そうだね。
母と子の愛が一番多いけれど。
でもそれが描きたいからなのか、
それともそれが描きやすくてウケがいいからなのか、
…自分でもわからなくなってきてしまった」
「そんな…」
「ねぇ。
長谷川君。
人が誰かを強く愛している瞬間。
て、
目に見えると思うかい?」
「…思います」
凛とした表情で目の前の大きな油絵を見上げる長谷川の返事には、
迷いがない。
「そうだね。
僕もそう思う」
同志の横顔を見つめる香曽我部の眼差しは先ほどとは違い、
室内だと言うのに眩しそうに眇められていた。
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