第1章

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「ただ…その一瞬に立ち会うのは難しいと思います。 この、 カリエールの絵のように。 ――こうして母親が子供の頬にキスしている瞬間はたくさんあっても、 毎回同じじゃない。 この絵を描いている作者の家族に対する愛情と、 描かれている母子の作り出した一瞬が組み合わされて、 それは目に見える愛となった。 そして…百年以上経つ今も、 こうして色褪せることなく奇跡のようにカンバスから溢れ出している」 「ピュアな気持ちの重なりが、 この一瞬を生んだと?」 「ええ。 この子供は熱を出して寝ていたのかも知れない。 怖い夢を見て起き出してきたのかも。 それとも幼い妹か弟にやきもちを焼いて夜中にぐずって見せたのかもしれない。 そんなときの母親の優しいキスが、 子供にも、 そして父親である作者にも、 この家族を包むなにものにも代えがたい愛しい瞬間として、 記憶されたのでしょう」
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