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「娘さんか?」
相手は笑顔で赤い着物の茉奈を指し示す。
その背後では赤ちゃんを抱いた女性も微笑んでいた。
「いや、姪っ子です」
岡田先輩にはちゃんと奥さんも子供もいるのだ。
「うちの姉の子です」
相手の目にふっと寂しい笑いが浮かんだ。
「茉莉(まり)ちゃんの子なんだ」
中高時代、この先輩が同級の姉を好きらしい空気は何となく感じていた。
「お母さんに似てるね」
幼い笑顔が大きく頷く。
「マナはママそっくりなの!」
それをしおに先輩一家はまた緩やかに歩き出した。
「じゃ、また」
穏やかだが何かを諦めた風な笑顔で相手は振る。
「気を付けて」
どう返すべきか迷って出た言葉はそれだった。
人の波がまた静かに動く。
先輩一家の姿はすぐに紛れて見えなくなった。
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