第五話 1年間に何百人死んでると思う?

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すると白夜は私の耳のそばで小さく囁いた。 「これが現実だ。人間はヒーローになんてなれていない。ヒーローの皮を被って生きている。それにお前は今知ることが出来た。」 心にずんっと鋭いものが突き刺さる。床を見ると赤い文字がびっしりと書かれていた。 "おかあさんにあいたい" 幼い子供の字が、その中にあった。母親に会いたい気持ちが心にくる。それだけじゃない、愛する妻を思う文字、同級生を恨む文字、孤独に生きる老人の文字、いろんな文字があった。一つ一つの文字を見る度に、涙が溢れる。 こんなにも文字が多いと、人が日本のどこかで、世界のどこかで、今も死んでいるのかもしれないと思う。自ら命を投げ出す人、突然の出来事に命を奪われる人、人生の終わりを迎える人がいる。それに涙する人もいれば、何も思わない人、すぐ忘れて楽しようとする人、...そして悲しいことにそれを見て嘲笑う人だっている。人一人一人に、思いはある。死ぬ前に、思いがやっとはっきりするかもしれない。     
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