第1章 ふわふわした足元とぬかるみと

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土日は専らこもってばかりいるマンションの一室は、激務と引き換えに手にした私の城だ。 土の庭が欲しくて30代のはじめに購入した一階の部屋は、柵はあるものの防犯という面では頼りない。 その隙間をすり抜けると、隣の築何十年のアパートの庭に出る。心なしか私の庭より広い。 「蒼ちゃん」 網戸だけ引いた縁側の奥で、無精髭を生やした男が半袖半ズボンで寝そべっている。 「風邪ひくよ」 半覚醒状態なのだろう。 うぅんと目を擦りながら、起き上がろうとする姿が可愛い。 30代前半には見えない童顔が、こちらを向く。 「紫(ゆかり)、来てたんだ」 「うん、さっきね」 このように家宅侵入しても、竹田 蒼太(蒼ちゃんと呼んでいる)が驚かないのは、私達の付き合いが長いからということもあるが、彼の人懐こい性分によるところも大きい。
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