豹変

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 今回通された部屋は、王の生誕祭のときに使わせて貰った部屋と違い、随分と大きな部屋だった。といっても、前の部屋が狭かったということはなく、今回の部屋が大きすぎるだけなのだ。きっと、前回の部屋よりも良い部屋なのだろう。実際、落ち着いた暗めの赤色を基調にした部屋に並ぶ家具は、どれもこれも緻密で美しい装飾がなされた高価そうなものだし、少年が横たわっているベッドだって、一体何人寝る予定なのだろうかと不思議になってしまうくらいに広い。それどころか、出入り口以外にも扉があることから察するに、恐らく一部屋で構成されている訳ではないようだ。少年は勝手にドアを開けることなどしないので判らなかったが、少なくともこの部屋に繋がる部屋がもう一部屋はあるのだろう。 「……こんなに豪華な部屋にいるなんて、なんだか落ち着かないね、ロスティ」  ロスティというのは、少年がこのテディベアにつけた名前である。勿論、つけようと思ってつけた名前ではない。テディベアの贈り主である王にせがまれてつけたのだ。そんなことを言われてもぱっと良い名前が思い浮かばなかった少年は、咄嗟に王の名にちなんでこの名前をつけたのだった。実に安直であると、少年自身もそう思う。  とにかく、こんなに大きなベッドで一人寝をするのは心細くもあり申し訳なくもあった彼は、ないよりはマシだろうということで、テディベアを抱えて寝たのだ。  取り敢えずベッドから出た少年が、着ていた寝間着(サイズがぴったりのものが何故か王宮に用意されていた)を脱いで普段着に着替えていると、ちょうど着替え終わったところで扉を叩く音がした。 「はい、どうぞ」  そう声を掛ければ、廊下に通じる方の扉が開き、年配の女官が湯の張られた桶や食事が乗ったワゴンを押しながら入ってきた。この女官は、少年も知っている。赤の王の生誕祭の折に少年の身の回りの世話をしてくれた、グランデル王宮の女官長だ。     
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