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頭の中で道筋を思い出しながら、王が歩く。そうして街の一角を回り続けて暫くしたところで、王はようやくその歩みを止めた。そして、先に道が続いてる目の前の空間に手をかざし、小さく呟く。
「オープン セサミ」
すると、王が手をかざした場所を起点に、まるで皮が剥がれていくように空間が捲れ、複雑な模様が彫られた一枚の扉が出現した。そして、王がドアノッカーに触れる前に、王を招き入れるように扉がひとりでに開いていく。
これは、空間魔法の一種であった。決められた場所を決められた順に決められた回数だけ回り、最後にある言葉を唱えることで扉が開くように設定された、比較的高度な魔法である。そして、その扉の先こそ、王が目的とする場所だった。
手順に従いこの空間魔法を解除したのは王だったが、別にこれは王が施した魔法ではない。赤の王は、こういった緻密で複雑な魔法は大の苦手なのだ。この空間魔法は、扉の先にいる者が、自身が認めた訪問者以外の侵入を防ぐために施したものだった。
「お邪魔する」
そう断って扉をくぐると、扉は開いたときと同じように勝手に閉まってしまった。それをちらりと見てから視線を前に戻せば、男の視界に、沢山の物が乱雑に置かれている部屋が広がった。物が多いせいか手狭に感じられるそこには、分厚い布がかけられた低いテーブルがあり、それを挟んで向かいの床に、背の曲がった老婆が座っている。
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