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「久しいな、ご老人」
王が老婆に向かって軽く会釈をすると、老婆は皺だらけの顔を顰めて返した。
「儂と会うというのに、随分とやぼったいものを張り付けているねぇ」
「やぼったいもの? ……ああ、目くらましのことだろうか」
そう言った王が苦笑する。
「これは申し訳ない。一応これでも有名人でな。こうでもしなければ、目立ってしまって困るのだ」
「そうやって誤魔化したところで、お前さんはどうせ目立ってしまってどうしようもない人間だよ」
呆れた声で言った老婆が鬱陶しそうに手を振ると、男を覆っていた目くらましの薄衣が見る見るうちに剥がれていき、赤銅の髪と金の瞳が露わになる。
「こら、何をする。これでは帰るときに難儀してしまう」
「うるさいねぇ。いつものように王獣にでも乗って帰りな。道中の食料くらい用意してあるんだろう?」
「まあ、それはそうなのだが……」
ついでに薄紅の国でも冷やかして帰ろうかなぁと思っていた王だったのだが、どうやらその考えを見透かしたらしい老婆は、呆れ返った表情をした。
「またあの犬っころに怒られたいのかい?」
老婆の言う犬っころというのは、グランデル王国のレクシリア宰相のことである。
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