千里眼の老婆

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「……ご老人?」  訝し気な顔をした王に、老婆が一度目を閉じて大きく息を吐く。そして彼女は、眉根を寄せたまま王を見た。 「儂はお前さんを気に入っているが、だからと言って儂が知っている僅かなことの全てを教える訳にはいかない。だから、お前さんに渡せる情報はほんの一握りだ。良いかい?」  念を押すような言葉に、王が頷く。それを確認してから、老婆は再び口を開いた。 「ここ暫くの間、南東に良くないものが住み着いている。あれは人の手には負えないよ」 「…………なるほど。心得よう」  一瞬だけ表情を強張らせた王は、次いで深々と頭を下げた。  他でもない、これ以上ないほどに心を砕いてくれたのであろう老婆に、感謝の気持ちを表明したのである。  老婆は確かに王を気に入ってくれているが、恐らく彼女には彼女の立場や事情がある。だからこそ、王を含むこの地の人間への過度な干渉は避けているのだろう。だが、たった今王に差し出された言葉には、彼女が引いている一線を越えてしまうに十分すぎるだろうほどの情報が含まれていたのだ。     
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