プロローグ

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 赤の王に敗れて国に逃げ帰った彼は、一命こそが取り留めたものの、全身に酷い火傷を負い、ここひと月ほど満足に動けぬ状況にあった。そのせいで、本来であれば真っ先にすべき皇帝への謁見ができず、今日ようやくそれを果たすのである。  静かに入室した彼は床に膝をつき、高い位置にある玉座に向かって深く叩頭した。暫しの静寂の後、衣擦れの音が近づき、玉座の前で止まる。 「面を上げよ」  重圧を感じさせる低い声に、デイガーが短く返事をして顔を上げる。玉座を仰げばそこには、四十代半ばほどに見える、苛烈さを感じさせる顔つきの男が座っていた。そう、彼こそが、ロイツェンシュテッド帝国皇帝、ルーディック・グリディア・ロイツァーバイトである。そしてその隣では、面を被った青年が、豪奢な造りの玉座の肘掛けに腰かけていた。  皇帝が座す玉座の肘掛けに座るというこの上ない不敬に、しかし皇帝が気にした様子はない。デイガーの方は気にしていない訳ではなかったが、目に慣れた光景なので、敢えて咎めることはしなかった。 「ご報告に伺うのが遅くなり、大変申し訳ございません。本来ならばこの身を引き摺ってでもこの場に向かうべきところ、まずは治療に専念せよとの寛大なお言葉を賜りましたこと、深く御礼申し上げます」 「良い。お前は貴重な戦力だ。このようなところで死なれては困る。……それよりも、報告書を見たぞ。エインストラを見つけたそうだな。間違いないのか?」     
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