千里眼の老婆

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 暫く、という単語に込められた意味は、恐らく二つある。一つは、十年前に急に帝国の魔導が発展したことと関わりがあると伝えるため。もう一つは、そんなにも長くの間、良くないものとやらが帝国に存在し続けられたという事実を知らせるためだ。そして極めつけは、人の手には負えないという一言である。  つまり、老婆の言葉に含まれた意図を推測すると、 (十年ほど前から帝国に加担している何者かが、帝国の魔導を発展させた。そしてその何者かは、人の手には負えぬ力を持つ者。それこそ、ドラゴンに匹敵するか、それ以上か……。どちらにせよ、守護装置である我々の手に負えない生き物が十年もの間関わっていたというのに、神が干渉してくる様子はなく、事態はどんどん悪化しているということになる。では、神は何をしているのか。我々が思っているほど万能ではないか、そもそも所詮は防衛装置に過ぎない我々を守る気などないか、……もしくは、干渉できない事情があるか……。最初の可能性は低いと思うが、今の段階でそこまでの判断はつかない。だが、少なくともこれで我々の前提は崩れたな。神の決定は絶対ではない。……いや、待て。寧ろこれは、神が下した絶対の決定を覆し得る生き物が存在する、と考えるべきか? ……であれば、良くないものというのは……)  そこまで思案したところで、王は深く息を吐き出した。     
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