千里眼の老婆

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 考えるのはやめだ。老婆がその生き物を人の手に負えないものだと言うのであれば、それはその言葉の通りの意味である。王がここで思案に暮れたところで、事態が好転することはないだろう。 「ここは逆に、十年も時間があったというのに大した動きがなかったことを喜ぶべきか」  ふっと微笑んでそう言った王に、老婆は何も言わなかった。だが王には、その表情が少しだけ緩んだように見えた。 (恐らくは、向こうにも動けぬ事情がある筈だ。そうでなければ、リアンジュナイルの制圧にこうも時間がかかることはないだろう。その事情とやらが判るのが一番なのだが、……その辺りは本丸に潜入中の黒の王に任せるべき、か) 「さて、霧は晴れたかい?」  老婆の言葉に、王は苦笑した。 「これでご老人の知っていることの一握りだというのだから、困ってしまうな。どうやら、事態は我々が思っている以上に切迫しているらしい」 「それが判っただけでも、来たかいがあったというものじゃあないか」 「まったくもって仰る通りだ。ご尽力、感謝する」  そう言ってからもう一度深く頭を下げ、王は立ち上がった。 「おや、もう行くのかい? 久々に会ったのだから、もう少しゆっくりして行けば良いというのに」 「お誘いは大変嬉しいが、そうはいかない。急ぎ、このお教え頂いた情報を連合国で共有せねばならんのでな。残念なことに薄紅の国で遊ぶ時間もなさそうだ」     
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