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ビーフシチューもちゃんと肉がほろほろで美味しくできていてともかく安堵する。こういうの本当に久しぶりだから。リュウと距離を置いてからこっち、手の込んだものや時間かかるものはずっと作る機会がなかった。一人分作るようなメニューでもないし。誰かと一緒に手料理を食べるなんてあれ以来神野くんが初めてだ。勘が鈍ってなくてよかった。
神野くんは給食で初めて食べるメニューに出くわした小学生みたいに目をきらきらさせて弾んだ声で言った。
「…あのさ、こんなの。…店とかでしか食べたことない、実際」
「いやあの。…皆まで言わなくていい、です。から」
わたしは慌てて遮った。神野くんのお母さんだってちゃんと美味しいもの作ってくれてると思うけどなぁ。感謝しなきゃ駄目だよ。
「こんなの毎日食べられたらいいのになぁ。…あ、ここまで凝った時間のかかるものじゃなくても勿論。こないだみたいな手早い料理でもちゃんと、同じくらい美味しいし。眞名実と一緒に作って、一緒に食べて。…そんな毎日だったら」
「そうだね、ほんとに」
思わず素直に頷いた。確かに。そんな想像はすごく素敵だ。
必要以上に素っ気なかったりそうかと思うとちょっとしたことで独占欲を発揮したり。大人の態度で諭されるかと思うとガキっぽくむくれたり。扱いづらいなぁと閉口しながらもつい振り回されて。きっと退屈しないだろうな。
この人とならきっと新しい世界が見えてくる気がする。
ふと、食べ終わったスプーンをかち、と音を立てて置いた彼の表情に気づく。不審げに、でも僅かに眩しそうに目を細めてわたしをじっと見てる。
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