第21章 幸せになってはいけない

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「見てないよ。まだ電車あるから、よくわからない幹線道路の方へ一人で向かってタクシー探すより、眞名実はきっと駅の方へ向かうだろうと思ったから。途中で張ってた。あいつが思いの外余裕があって二人で連れ立ってきたら一応離れて様子伺いながらこっちも帰ろうかなと思ってたけど。でも、結果よかった、待ってて。こんな時間に眞名実を一人で歩かせるのは心配だよ」 「…会社…、仕事で、結構遅くなる日もあるけど。飲み会とかもあるし」 素直じゃないわたしはストレートに感謝も見せずぼそぼそと抗弁する。神野くんは切れずに辛抱強く言い含めるように答えた。 「ここは夜遊びの街だし。オフィス街とは柄が違うよ。飲み会の時だって同僚の人たちが帰り方に気を配ってくれてるだろ。それと変わんないよ。…あいつだって普段だったら絶対こんな街でこんな時間帯に君を一人で歩かせないと思う。今はそれだけ頭が真っ白なんだろう」 柔らかな声でちゃんとリュウへのフォローも付け足した。その心遣いは伝わってくる。けど、充分に感謝を表す心の余裕が今はない。 「…うん」 重く顔を俯けて足許に目をやった。今は顔を上げたくない。自分がどんな顔をしてるか想像もつかなかった。 煌々と白っぽく輝く駅の入り口が近づいてきた。神野くんがわたしの隣に肩を並べて、ふわと温かな手のひらを軽く背中に添えた。 「…大丈夫だよ」 いつもよりやや心のこもった、励ますような声。     
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