第21章 幸せになってはいけない

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心の底から割り切れてたわけじゃない。ただ、今のこの時点で全てを取り出して目の前に広げて検証するなんてことはとてもできなかったから。どうかするとあの時のリュウの姿がありありとフラッシュバックのように脳裏に蘇ってしまいそうで。凍りつくような張り詰めた冬の夜の空気、ちかちかと何度も繰り返し点滅して色を取り替えていく横断歩道の信号。そんな何でもないものがトリガーになりかねず、わたしは慌てて全部ひっくるめて袋に突っ込むように心の隅に押しやった。 何もかもをただそのまま放置して見ないふりをしてただけで全然手をつけてはいなかった。だけど普段どおりに生活できてはいたから、会社の人なんかにはいつもと変わらないわたしにしか見えなかったと思う。 高松くんや上林くんは、最初少し腫れ物に触るように気を遣ってくれているのがわかった。 リュウと決定的に別れたとは彼らにはっきり伝えはしなかったけど、あえて言葉にしなくてもそこは大体察したらしい。会えない時でも小まめにLINEを送ってきたり、時折通話でやり取りしたりして、わたしが寂しく感じることがないように普段より気配りしてくれてるらしかった。彼らとリュウの存在について話すことは元来ほとんどなかったけど、会う会わないに関わらずわたしには常に精神的に彼に寄りかかってる部分があったことはちゃんと知っていたんだな、と改めて気づいた。 こっちが考えてるよりずっと、この人たちはわたしのことしっかり見ていたんだと思う。 翌週になって再びみんなで集まった時も、この上なく優しかった。 「まな、顔色冴えないぞ。ちゃんと食事してるか?よく眠れてる?」     
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