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財布だけを手に持って駅へと向かう。それから電車には乗らず駅前にある、喫茶店で朝食をとった。わざと道が見えるドア寄りの席を選んで、駅へと向かう人混み無心で眺めた。
人混みに眺めていると実に多様な表情、格好をした人がいるのだと言うことを改めて実感した。友達と仲良く談笑しながら歩く学生や、朝からぴりぴりした雰囲気をまとっているサラリーマン。一人音楽の世界に浸りながら歩く大学生。
当たり前のことではあるが、それだけ多くの人がこの町にはいるのだなと改めて実感する機会になった。人混みの流れは九時半くらいまで途切れることなく続き、その間僕はずっと外の流れを眺め続けた。
人混みが緩和されてから僕も店を出て、電車へと乗り込んだ。目的地などはないがとりあえず海がみたいと思った。
それから電車での乗り換え案内だけを頼りに海辺の駅を目指した。電車に乗っている間も特にやることがないので、ひたすら流れゆく街の風景だけを追っていく。
ここ最近は携帯が身近にいるのが当たり前だったので、手元に携帯がないことに強い違和感のようなものを覚えた。
目的の駅までの道を調べるのも携帯。電車に乗っている間の暇つぶしも携帯。思えば携帯を手にしてからは、何をするにも携帯に依存しているなと言うことに気がついた。
その携帯がなくなったことにより、自分のやることも無くなってしまったのだが、精神的には今の方が断然ゆとりがあった。確かに携帯は便利ではあるが、便利であるが故に自分の行動などを極端に制限していた。
何をするにしても携帯基準になっていたので、今のような状況は新鮮なものであった。猛スピードで流れていく街の景観。駅で乗り降りする人々。建物の隙間からのぞく太陽や青空。そういったものの美しさを久しぶりに味わえたような気がする。
それから何度か道を間違えながらようやく海が近くにある駅にたどり着いた。長らく電車に揺られ凝り固まった体をほぐすため、大きく深呼吸をする。周りは海の匂いに満ちていて遠くに来たことを実感させられる。
海に来たいとは思ったが、そこから先何をしようと決めていたわけではない。とりあえず近くにある個人経営のラーメン屋に入り昼食をとる。
食べ終わってから再び外に出て海を目指す。駅の案内を見たところ五分程度で海に出られると書いてあったように、すぐに視界いっぱいの海が広がった。
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