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そのまま十五分近く歩いていると右手前に大きな公園が見えてきた。海に突き出たような場所に位置するその公園は、周りの景色を眺めるのにはもってこいの場所のようだった。
引き込まれるように公園へと入っていく。公園は展望台のような役割も果たしており、周りを見渡すのにうってつけの場所だった。中央部には砂浜につながる下り階段と、さらに上に上れる階段があり入り口はその中間に位置していた。
そのまま公園の端まで歩いて行き、近くにあるフェンスに体を預ける。そこから見える景色は予想したとおりの絶景で、遠くにある島まで綺麗にとらえることができた。
それからしばらくは穏やかに流れる時間を心ゆくまで満喫した。しばらく何も考えずに海を眺めていたが、少し離れたところに同じように海を眺めている男の存在に気がついた。
公園に入ったときは気がつかなかったが、僕と同じような目的でここに来たのだろうか。その男はスーツを着ており、正直いってこの場においては不自然そのものであった。男は深刻そうな顔をしながら海を眺め、ときおり深いため息をついていた。
その明らかに悩みを抱えているという雰囲気が僕に親近感のようなものをわかせた。あの男が何かに悩んでいるのは一目瞭然である。その姿が今の自分と重なって、勝手な共感が生まれてきた。
彼は一体何に悩んでいるのだろうか。他人に無関心になりつつ僕が珍しくそう思えた。こうやって人のことを知りたいと思えたのも随分と久しぶりな気がする。
僕は思いきってその男の元に近づいていった。こんな非日常でなければこんな大胆なことはしないだろう。
「あの、少しよろしいですか」
僕が慎重に言葉をかけると、その男も顔をあげてこちらを見てくる。近くで容姿を確認すると、年齢は同じくらいのように思えた。
「はい、なんでしょうか」
男は僕のことを警戒してか、控えめに言葉を返してくる。確かにいきなり知らない男に声をかけられたら誰でも警戒するだろう。
「いや、特に話しかけた深い理由はないんですけど……。何かに悩んでいるようなので話くらいでも聞けたらと思いまして……」
声をかけた理由を聞かれて思わず尻すぼみな返事になってしまう。確かに何か理由があったから声をかけたわけではないので、自分でも返事に困ってしまう。こんな返事では、確実に避けられてしまうだろう。
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