小さな幸せ

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僕からしたらそれだけ些細な問題のようにしか思えなかったが、男にとっては仕事が手につかないほどの重要な問題らしい。それに僕から言わせてみれば、仕事がそれだけうまく言っていれば悩むことなどなにもないように思える。 昇級もして、仕事はつらいときは簡単に抜け出すことができる。僕からしたら信じられないことの連続である。そんな状況にある男のことが羨ましくしょうがなかった。 「なんだか話し込んでしまいまして、すみません。聞いていて退屈だったでしょう」 「いえそんなことはありません。だけど正直に言うと、そこまで悩んでいる理由が僕に分かりません。正直言って今の彼女と別れるか結婚するかなんて、自分の感情一つで答えがでるでしょう」 僕が素直に感想を言うと男とは笑った。かなり失礼なことを言ってしまったが、男は気にしているようには見えなかった。 「やっぱりそういう風に見えるんですよね。確かにそうかもしれないんですけど、やっぱり色々と複雑なんですよ。……それで、あなたは何か悩みでもあるんじゃないんですか」 男が悩ましげに話した後に、僕に質問を投げかける。突然の質問に思わず面食らってしまう。 「僕が何かに悩んでいるかなんて言いましたっけ」 「いきなり悩みがあるんですか、なんて声かけてくる人がいたらそうなんじゃないかって勘ぐりますよ。それに海を眺めているときのあなたも相当深刻な顔をしてましたよ」 自分としては穏やかに海を眺めていたつもりだったのに、周りから見たら悩んでいるように見えたらしい。無意識にうちに自分がつらいと思っているのがあふれ出していたのだろう。 核心をつかれたことが妙におかしく感じてしまい、僕も悩みをすべて目の前の男にぶつけた。男が素直に悩みを打ち明けてくれたことにより、僕も話しやすい土台ができたのだと思う。 仕事関係でうまくいっていないこと。上司から無理なノルマを掲示され毎日罵倒され続ける日々。周りはそんな僕をみて助けるわけでもなく無関心を貫いていること。一度話し始めると悩みは滑らかに口からあふれてくる。 気がつけば三十分近く話し込んでいた。男はその間、特になにか反論や共感をするわけもなく、ただ黙って話を聞いてくれていた。 一通り話を終える頃にはかなり気持ちが軽くなっていた。僕はもしかしたらこうして気持ちをはき出す相手を求めていたのかもしれない。
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