第1章

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 ナナが『引継ぎ』を口にしてから一ヵ月の間、コロは毎日が猛特訓の日々だった。  ナナが家の柱で爪を研げば、コロも見様見真似で爪を研ぐ。ナナが前足と後ろ足を折り畳んで香箱座りをする、いわゆる猫座りをすれば、コロも短い足を必死に折り畳んで座った。  家のご主人である小川結衣は、2匹のそんな姿を見るのが大好きだった。何せ仲良く遊んでいる様にしか見えなかったからだ。だが犬のコロには厳しい訓練でしかなかった。特に苦労したのは、最後に教えてもらったキャットタワーの上り方だった。お尻が大きく重いコロは上手く登れず、業を煮やしたナナが本気で鼻を引っ掻いた事もあった。結局半分の高さまでしか登れず、コロはナナの強烈な猫パンチを覚悟したのだが、代わりに優しく頭を撫でられた。 「コーギーにしちゃあ、あんたはこの一ヵ月良くがんばったね。できた犬だったよ。これからは自分でしっかり忘れないように練習するんだよ、新入り猫が来た時のためにね。コロ……、今までありがとね。ずっと楽しかったよ」  そう言って微笑んだナナは、寝床であるキャットタワーの頂上まで登り、そこで永い眠りについたのだった。
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