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「もうナナの真似はやめて! コロ!」
結衣は大きな声を張り上げた。コロはその声に驚き、家の柱で爪を研ぐ仕草を止めた。すすり泣く音がコロの耳に痛く刺さる。
チリンという音に、コロは俯いていた顔をパッと上げた。結衣がナナの首輪をごみ袋に入れようとしていた。
「ワン!」
「コロ!! 離しなさい! あっ!」
首輪を咥えたコロは結衣から急いで離れた。
「コロ、もう……二週間だよ。ナナは、戻ってこないんだよ!」
結衣が首輪を取り返そうとコロに近づいてくる。コロは咄嗟にキャットタワーを登り始めた。無我夢中で目の前の段へ段へと飛び移る。猫の様なしなやかな動き。チリン、チリンという鈴の音。まるでナナが登っているかの様で、結衣はコロに釘付けになった。そしてコロはついに頂上までたどり着いた。
初めて来たナナの寝床。ナナの匂いがする、コロはそう思った。日を追う毎にご主人と自分の匂いだけが強くなるこの家に、まだこんな場所があったんだ。
『コーギーにしちゃあ、あんたは良くがんばったね。できた犬だったよ』
ふとナナの最後の言葉が耳に蘇り口が少し震えた。チリンと鈴の音が鳴る。もう少しここにいたくて、コロはゆっくりと座った。
「コロ……、 ぷふ。ちょっと、その座り方」
猫座りをしたコロが結衣の声に振り向く。結衣はお腹を抱え、涙目で大きく笑っていた。
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