3.しかたがない

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 実際に仕事をしてみて分かったのは、その「キャリア」なんて結局何かというと、単に職場のオッサンに頭を下げて、出たくもない飲み会でお酌して機嫌取って、残業して自分を犠牲にして、その姿を通じて「あぁこの人は使えるな」という漠然とした印象を与えて、それで周囲からいい評判をもらうってだけのことだ。  もちろん仕事を通じて大人としての常識や知識も身についていくし、仕事の腕前も上がっていく。それは立派な「キャリア」だ。  でも、その身に着いたものが転職して他の会社に行っても通用するかどうかは分からない。  よくわからないけど自動的に積み上がっていき、それが使えるかどうかもよくわからないこの「キャリア」とやらに、一体何の意味があるんだろう?  会社経験が積み重なって周囲が見えてくるようになるにつれ、私はなんだか馬鹿馬鹿しくなってきて気持ちが醒めていった。  だいたい、女性で「キャリアを積んで幸せになった人」というのを自分の会社でも外でも一人も見たことがない。だから、イメージしようにもできない。  そんな風に特に確たる展望もなくその日暮らしの仕事をしているうちに、私は二十八で結婚してその翌年に子供を授かった。  妊娠したんだから産休と育休の手続きをしなきゃいけないね、と私はその時になって初めて、切実な自分の問題として将来の働き方についてぼんやり考え始めた。  考えているうちに、それまで薄々感づいてはいたんだけど、正直他人事だったので全然実感がなかったことが、だんだん形となって自分の頭の中に浮かんできた。 ――これ、無理じゃね?
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