4.王様の耳はロバの耳

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 ブログの登録は終わった。目の前には、記事が何一つも入っていない空っぽの新しいブログ「源五郎のイクメン日記」の枠だけがある。  さて、勢いでブログを作るだけ作っちゃったけど、果たして何を書いたらいいものか。  私にはたいした文章の才能はない。私も一応少しだけSNSをやっているけど、それは読む方がほとんどで、時々ものすごく腹が立った時などに独り言を書き込むくらい。  そんなだから、もちろんそんなSNSでの私の発言を読んでそれに反応してくれる人なんて一人もいないのだけど、この独り言は何も入っていない箱を開けて「王様の耳はロバの耳―!」と叫ぶのと同じストレス解消法だ。  SNSと一緒よね。どうせ誰も読んでないんだから、何も考えずに思いつくままに愚痴を書けばいいのよ。それがストレス解消なんだから。  そう覚悟を決めて、私はまず最初の日記を書いた。 “娘が37.7度の熱を出して昨晩からダウン。  今日は打ち合わせが2件あったけど、会社の人に平謝りして仕事お休みしました。  子供が熱で辛そうな顔してて、それはもちろん可哀想なんだけど、会社のみんなに迷惑かけてしまって、俺だって泣きたい気分だよ……“  そして送信ボタンをクリックすると、ブログの中にその記事が表示された。もちろん、今さっきできたばかりの無名のブログを見てくれる人はまだ誰もいない。  でも、これが記念すべき私の「イクメン日記」の第一歩だ。今まで一度も使ったことがない「俺」という一人称を使ったことに私はわけもなくドキドキして、「これ、結構楽しいかも」と上気した顔で思った。
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