1.夫はイクメン

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1.夫はイクメン

 どうして、私は夫にイライラしているんだろう?  夫は決して悪い人ではない。もちろん好きで結婚した人だし、基本的に優しい人だし、私の話もよく聞いてくれる。  そりゃ、いくつか気に食わないことや意見の合わないことはあるけど、夫だって私だって人間だ。一切不満のない完全無欠のスーパー旦那なんて逆に気持ち悪いから、食器棚に食器じゃないものを置くとか、何度言っても水虫を全然治そうとしないとか、その程度の夫の嫌いな面なんてのは十分許せる範囲内だと思う。  むしろ、周囲の人の目から見たら、うちの夫に不満があるなんて私が少しでも言った日には、なんてぜいたく者なのときっと怒られることだろう。  夫は週末には二人の幼い子供の面倒をよく見てくれるし、時々は私一人だけの時間も作ってくれる。そこそこ料理もできるし、他の家のママさんの話を聞く限り、うちの夫は他の家と比べても、家事を自分からかなり手伝ってくれるほうだと思う。  そう、私の夫は世に言う「イクメン」というやつだ。  SNSやネットで育児に関する記事を見ていると、家で何もしない夫や子育てに無理解な夫に対する愚痴が、探してもいないのにじゃんじゃん出てくるわ出てくるわ。それも、本当にひどい話ばかり。  陣痛が来て妻が苦しんでるのに「夕飯はまだか」と催促してくる夫。ウンチが臭いからおむつを替えるのは嫌だなどと言う夫。妻は子育てでヘトヘトなのに、平気で外で女を作る男。それで浮気がバレると「子供が生まれてから妻が冷たくなったので」とか、さも浮気したのは妻の態度が悪いせいだと言わんばかりの言い訳を言ったりする。  どうしてこう男って生き物はことごとくクソなんだろう、ってこの世の全てに絶望してしまうような話が、ネットの世界にはあふれかえっている。  それにニュースを見れば、夫のDVや児童虐待だって決して別世界の話じゃない。そんなものは世間では普通にあることだ。  そんなクズのような男たちと比べたら、うちの夫はこの上なく素晴らしい人間のできた男だし、こんな素晴らしいイクメンの旦那を捕まえた私は、誰もがうらやむ幸せ者ということになる。 ――なのに、なんで私は夫に対してこんなにもイラついているんだろう?
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