いびつな王家

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―――― ようやく禁足が解かれて、乾坤王府からは衛兵が引いた。夜、門前に馬車が付いた時、王府に仕える者らは大いに歓喜し出迎えた。 「王爺……」 「王爺!」 「王爺がお戻りに!」 宇軒は曖昧に頷いたきり、力なく北の棟に向かってしまった。天佑が後を追う。 「王爺。傷の手当てを…」 「よい。自分でやる。一人にしてくれ」 振り返りもせず扉を閉めた。 がらんとした自室には机にも盆にも奏上分が積み上げられている。戦から帰るといつもこうだ。ひとつ、ふたつ、返事を書いたところで筆を置いた。溜息ばかりがもれる。酒を注ぐ音。飲み干した盃を置く音。ろうそくのはぜる音。部屋に響いて耳に返る。妻を失う以前の自分には戻れない。虚ろに席を立ち、簫を手に取った。とても吹く気力は湧かないが、美婉と手合わせをした日を思い出す。 「…………美婉。……すべてが偽りだったとは思えぬ。……これも私の自惚れか……」 自嘲じみた笑みを浮かべる。 「誰だ」 扉のむこうに気配を感じて問うた。 「……若溪です」 「一人にしてくれ」 「お話があります。預かってるものも」 宇軒はゆっくりと、扉を開けた。
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