―いち―

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 その言葉に、どくんと心臓が()ねる。この焦燥(しょうそう)感……これはいったいなんだろう。どうして僕は、こんなにあいつが気になっているのだろうか。  他人を思い()ることをしない男。傲慢(ごうまん)で、自分勝手で、デリカシーのかけらもない最低(さいてい)なやつ……。  ()()なんて、どう考えてもひとつしかない。 「(つた)えて……もらえるんですか?」 「もちろん」  もう二度と、()(ざき)(せい)()(ろう)()()()(かい)はないだろう。学生時代の()ぎたことはさておいて、これで最後というならば、先程(さきほど)たまった鬱憤(うっぷん)程度(ていど)は、はなむけとしておかえししても(かま)わないのではないだろうか。 「……どんなことでも?」 「なんなりと」  ランチとディナーの境目(さかいめ)で、店は一時的なクローズになっている。それでもこうして僕たちが追いだされずにいるのだから、この店にとって()(ざき)姉弟は思った以上に影響力を(はっ)()しているのかもしれなかった。でも、たとえそうだとして、僕にとってはそんなことなど関係ない。今も、もちろんこの先も……。  僕は(さぐ)るような目で先輩を見やり、深呼吸をして(こぶし)(にぎ)った。先刻(せんこく)まで()(まん)していた(くや)しさが沸々(ふつふつ)とこみ上がって、思いだすだけで(いか)りに(ふる)える。  あんなやつ……あんなやつに…………。 「……ヒモだのホモだの貧乏人だの、()()のこと好き勝手に言いやがって……っ」  目の前にたたずむは(あか)()(にん)だ。()()わりにするようで申し訳なく思ったけれど、それでも考え始めると()めることなどできなかった。
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