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―さん― ~木崎誠志郎の回想~
「あー……マジ最悪。なんで俺が……」
シャワーを浴び、備え付けのバスローブを羽織りながらベッドの縁に腰掛けた。こぼれ落ちる悪態は、道理に適った言いぶんだ。
そう。
どうして俺が、あんな目に遭わなければならないのか……。
突然、気を失った月城馨を車に乗せ、急いで目の前のホテルへと移動した。携帯電話でマネージャーの真田を呼びだし用件を告げ、地下駐車場からそのまま部屋へと直行する。部屋の前ではルームキーを手にした真田が指示どおり待っていて、俺は浅く腰を折る男に視線で促し、その鍵を開けさせた。
そのとき見せたあいつの目……。
使い慣れた縁続きの施設だけに、その従業員も見慣れているし、それなりに由緒あるホテルゆえ、教育だってしっかりと行き届いている。無駄口などたたかなければ、プライベートに口を挟むことなど一切ない。なのに……。
「……あの野郎。なにが『ご入り用なものがあれば携帯にご連絡を』だ。フロントに言いつけられないようなもの、頼むみたいに言いやがって……。これじゃまるで、俺がこいつを連れこんだみたいな構図じゃねえか」
確かに、意識のない人間を背負っていたのは認める。けれどもそれはやむを得ない状況だった。俺だってこんな役目、不本意にほかならない。
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