―さん― ~木崎誠志郎の回想~

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「あーーーくそっ! 面倒(めんどう)くせえし、(つか)れるし、勘違(かんちが)いされるしよ……」  今頃、(うわさ)になっているかもしれない。職業柄とはいえ、いつもならあんな視線を()こさないのに、そのお相手が男となるとああも反応が(ちが)うとは……。 「てか、()れこんだわけじゃねえっつーの」  そういう人種を()(てい)はしないが、かといって男なんて趣味じゃない。当然、遊ぶ女に不自由などしたことないし、(かり)にもしそうだとして、俺にだって(この)みがある。男だろうが女だろうが、遊ぶなら(よう)姿()もさながら従順(じゅうじゅん)(もの)()かりのいい、面倒(めんどう)のない相手。こんな()ねっかえりの野良猫野郎、それこそつまみ()いにも(あたい)しない。 「遊ぶどころか疫病神もいいとこだぜ……」  (きし)むスプリングをなだめつつ、すうすうと規則正しい()(いき)をたて、()じろぎひとつしない男を真上から見おろした。 「ったく。どれだけ()れば気が()むんだよ。(ねむ)(ひめ)じゃあるまいし……」  肩まで()けた布団は、1時間前と変わらず、ほんの少しも(みだ)れていない。医者を()ぼうかとも思ったけれど、よく見るとぐっすりと(ねむ)っているだけのような気がして、しばらく静かに()かせてやることに()めたのだが、その見解(けんかい)はどうやら()(ちが)ってはいなかったようだ。 「びっくりさせやがって……」  血色の(もど)っている顔面をじっとながめ、俺はいくぶんほっとした。  それにしても……やはり気になる。 「これ、本当に冬物か?」  布団を(めく)って小さく(うな)る。ベットにこいつを横たえたときから、実はずっと気になっていた。  よれたスーツと(やす)っぽいネクタイ。壁に(つる)したハーフコートは袖口(そでぐち)()()れところどころ(ほつ)れている。  いったい、何年()たらああなるんだ……?
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