―さん― ~木崎誠志郎の回想~

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「ま、結局のところ、()(こう)()(だか)き人魚姫は、(たん)なる口の()らないひねくれた()(ねこ)ちゃんだったってわけか。(ぞく)っぽい(ちん)()(むす)びだな。とんだ()わせ(もの)だぜ」  いったい何人の男が、この唇を(あじ)わったのだろうか。そんなことを考えながら、自分の口を(かる)くそれと()わせてみる。遊びとはいえ、男にキスなんて(がら)じゃないが……。 「……普通、だな」  思いのほか抵抗(ていこう)なくいただけた月城(つきしろ)(かおる)の唇は、かさついてはいたけれど、(やわ)らかくてそれなりに美味だった。()()めるまでいくぶん時間はあるようだし、せっかくだから、(ひま)つぶしついでにしっとりと()らしておいてやろうじゃないか。 「へえ。結構いい反応」  (ついば)むたびにぴくりと肩が小さく()れ、(あわ)()(いき)(あさ)くかすかにこぼれおちる。浮上(ふじょう)しつつある意識と、それを(かも)す表情の変化が面白(おもしろ)くて、じゃれるように(ゆる)くそこを()んでみた。 「……ん……ぅ……」 「なに、もっと()しいってか?」  表面を舌先(したさき)でくすぐると、どこか(あま)えるように(のど)()らして唇を(ひら)いてくる。 「(なま)()()にねだってやがる。は、そう簡単にくれてやるかよ」  湿(しめ)()()びた口元をペロリと()めて、なんとはなしに考えた。  このまま(ふか)く唇を(むさぼ)ったとき、この男はどんなふうに(みだ)れるのだろうか……。  好色(こうしょく)淫乱(いんらん)――あのときこいつはそれを()(てい)しなかった。その言葉どおり、この身体(からだ)(よう)()()しだせる安物だということなのか。 「わりと敏感(びんかん)みたいだし、感じやすいのは(たし)か……だよな」  意識のすべてを征服したとき、こいつはどんな顔をするのだろう。奥深くまで(おか)したときは、どんな声で()くのだろうか。()(もだ)える肉体の隅々(すみずみ)(あと)をつけ、(つめ)(さき)まで快楽に(おぼ)れさせたら……。
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