―さん― ~木崎誠志郎の回想~

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「……って。なに妄想(もうそう)してんだか。男とセックスなんて(がら)じゃねえっつーの」  でも……。  妖艶(ようえん)残酷(ざんこく)な人魚を(はずかし)めて、その身体(からだ)()らい()くす。(はげ)しく、そして声を(うしな)う姫のように、最後には()(いき)ごと、(あえ)ぎさえ(うば)いとるほど暴虐(ぼうぎゃく)に……。 「案外、面白(おもしろ)そうだな。(わる)くねえかも」  そうだ。この挑発的で()(にく)たっぷりの小癪(こしゃく)な野良猫に、その境涯(きょうがい)を思い()らせてやるにはちょうどいい。淫猥(いんわい)身体(からだ)に俺の(あと)をつけながら、綺麗な顔が苦痛に(ゆが)むその(さま)を、じっくりと観察してやろうじゃないか。快感と羞恥の(はざ)()()いやって、つんとすましたその鼻先をへし()ったあと、()ぐるみ()がした()(ざま)な姿で道端(みちばた)()ててやる。 「はは、ざまぁみやがれ。いい()()だぜ」  俺は静かに布団を()ぐと、月城(つきしろ)(かおる)身体(からだ)(また)がり(うま)()りになった。 「いいか。たっぷり()みたきゃいつも以上にいやらしくケツ()れよ? そういうのは得意なんだろ、優等生の()(ねこ)ちゃん」  ()こさないよう注意しながら、ネクタイをそっと(ほど)く。どことなく気持ちが(たか)ぶっているのは、()かれる男の身体(からだ)を見るのが初めてだからだろうか。 「興醒(きょうざ)めしなきゃいいけどな」  慎重にボタンを(はず)し終えると、俺はシャツの胸元を無遠慮に()()いた。  白い(はだ)(そそ)ぐ光を()ねかえし、反射的に(まぶた)(すが)める。眼下に(とら)えた男の()(たい)は、思いのほか(きよ)らかだった。 「()(れい)……だな」  他人の痕跡(こんせき)()()たらないし、乳首の色も(あわ)(うす)い。まるで(ほころ)んだばかりの桜のような色だ。()()めたての(しん)()()()な小さな花びら。むやみにもぐのはあまりにも残酷(ざんこく)だろうか……。
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