―さん― ~木崎誠志郎の回想~

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「あーわっかんねえ……」  まるで度数の強い蒸留酒みたいだ。(なま)()月城(つきしろ)(かおる)を短時間に知りすぎて、こいつを吸収する密度が高すぎて、()()れない(しゅ)のアルコールに、ほんのわずか()っている。 「だから安い酒は(いや)なんだよ。(わる)()いするのがオチじゃねえか」  身体(からだ)()こし嘆息(たんそく)した。結局、考えたところで状況は変わらないのだ。  月城(つきしろ)(かおる)は今こうしてここにいる。むかつくことばかりだが、無感情な人形よりはずっといい。 「それにまぁ……笑った顔は(わる)くねえし」  まっすぐで気の強いところが、俺の姉貴に少し()ている。()れのせいか、そういう()(しつ)(きら)いじゃなかった。とはいえ、それがこれほどまでに興味を(いだ )く理由になるとも思えない。 「……人魚(にんぎょ)か。まさかな」  もしかすると、俺はすでにこいつの海へと()きずりこまれているのだろうか……。 「いや、ないないっ。この俺に(かぎ)って、それはガチでありえねえ……っ!」  (はじ)めて目にしたこいつの笑顔、それが(あたた)かい桜の季節を()()こして、少しばかり感傷的になっただけだ。 「ふん。それにこいつが(せい)()なわけねえしな。純情そうに見せかけて、(すき)あらば下半身にかぶりつくって手法だろ。(わな)だ、(わな)」  先程からもぞもぞと()じろぎしている月城(つきしろ)(かおる)は、いつの()にか横を()いて(あさ)()(いき)をたてている。(かわ)いていた唇は俺がこまめに()らしてやったおかげで、赤く(あで)やかに色づいていた。 「好色(こうしょく)……淫乱(いんらん)ねえ」  どことなく不自然さを感じるのは、昔のこいつの印象と差がありすぎるからだろうか。
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