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「…………なに、してるんだよ」
「なにって、見てのとおりキスだけど?」
さらりと答えてかえした言葉に思わず身を固くした。喉の奥では、声にならない凝った叫びがスタートラインに立っている。木崎と僕が……僕……こいつとキ……キス…………。
「ところでおまえ、大丈……」
「うわぁぁああーーーーー」
「――おわっ!」
厚い胸板を力の限りで突き飛ばすと、バスローブ姿の男がベッドから転がり落ちた。
なんで? なんで?? なんでーーー???
「……ってえ。おいっ! なにすんだよ、このクソチビ! 痛えだろっ」
木崎は舌を鳴らして立ち上がると、僕に向かって怒鳴りつけた。僕はそこから飛び起きて、逃げるようにベッドの隅へとあとずさる。
「な……な……」
さまよう視線をなだめつつ、それでも懸命に正面を睨んで叫びかえした。
「あんたこそっ! な、なにしてんだよっ――!」
「だからキ……」
「――言うなっ!」
頬が燃えるように熱くなった。耳の先までじんじんとして、今にも涙がこぼれそうだ。
「なんだよ? おまえが訊いたんだろ。俺は質問に答えただけだぜ」
「ぼ、ぼ、ぼくはっ――僕は、男だぞ! あ、あんた、そっちの人間じゃないだろーがっ!」
勢いとはうらはらに、さまざまな不安が脳裏を過っては消え、消えてはすぐ浮かんでくる。
どうしよう。なにも憶えてない……。
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