ーよんー

4/11
3776人が本棚に入れています
本棚に追加
/286ページ
 ()()めたとき、よだれと勘違いしたほど(したた)った()(えき)が口元に(のこ)っていた。その状況から考えて、おそらくそれを()わした回数は一度や二度ではないのだろう。しかもそれが、僕のものだかこいつのものだか、それすらわからないなんて……。  ……最悪(さいあく)だ。  別に漫画のようなファーストキスを夢見ていたわけじゃない。僕だってそれなりに年齢を(かさ)ねているし、()がりなりにも男だ。それこそ、(いや)しい妄想を()かべながらの()()行為だって定期的に(おこな)っている。相手が同性だとか、そんなことを言っているわけでもない。  それでも、こんなふうに()らぬ()(うば)われるなんて、(ひま)つぶしのお手軽な(あそ)びみたいに(あつか)われるなんて、いくらなんでも(みじ)めすぎやしないだろうか。 「……こんなの、なんでもない」  僕のささやかな()尊心(そんしん)。くだらないプライドだと言われても、それでもこれが初めてだなんて、()(ちが)ってもこんな男に()られたくはなかった。 「はは……あんな程度、なんてことないし……い、いつもと(くら)べたら、たいしたことな――」 「なんだよ。おまえ、やっぱりホモなんじゃん」  (いきお)(あま)って(つら)ねる(うそ)を、()(ざき)は不機嫌な声で(さえぎ)った。直後、(いか)りの空気を(ただよ)わせつつ、ベッドの表面を、ばん、と強く(たた)いてみせる。その衝撃(しょうげき)に僕はびくりと肩をすくめた。
/286ページ

最初のコメントを投稿しよう!