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「ま、そんなことは前から知ってたし、今だってそのほうが都合いいけどよ。伝言だかなんだか知んねーけど、遥佳にあんな大口たたいておいて、結局は『ホモでガリ勉の貧乏人』じゃねえか。けっ、反省して損したぜ」
とっさについた強がりに、これほど過剰反応されるとは思ってもみなかった。だからといってそれを撤回するわけにもいかず、僕は口を噤んだまま、ただじっと木崎の姿を見つめかえした。
「まぁ今はあの頃よりも、ずっと楽しく勉強してるみてえだけど。実践こみで」
口角を上げた木崎が、ベッドにたたずむ僕の身体を値踏みする。頭の先からリネンに隠れた輪郭まで、ねっとりと舐めなぞるあからさまな男の視線が嫌だった。
勘違いさせるような態度をとったのは僕のほうだ。なのに嫌悪を含んだ木崎の熱いまなざしが、思いのほか僕をひどく傷心させる。
……軽蔑、した……かな。
それでもどこかほっとした。今まで見せた木崎の言動、それを考慮してみても、キス以上のことをしたとは考えにくい。
木崎からしてみれば、僕と交わした口づけなんて本当に時間潰しとしか思ってはいなかったのだ。暇だったから、からかいついでにちょっとキスでもしてやろう、とでも思ったのだろうか。
悔しい……。でも、当然といえば当然だ。
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