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元来男を相手にする性癖もないようだし、あの木崎誠志郎が僕を……だなんて、なぜそんな馬鹿げた想像をしてしまったのだろう。少し考えれば、わかるのに……。
こいつが、血統書付きの木崎が、僕みたいなの相手にするはずないじゃないか。
たかが数日間、退屈しのぎで絡んだ玩具に絆されるようなやつじゃない。手をふりかえしたあのときと同じ、ちょっとした気まぐれだ。額面どおりに捉えてしまえば、傷だけが深く残る。
あんな気持ち……あの一度だけでたくさんだ。
それに僕だって、こいつとどうこうなりたいとか、そんなの全然、思っていない。
それでも用心するに越したことはないだろう。いかなる理由で木崎が僕に関わってくるのか、その意図はわからない。でも結局、それも単なる気まぐれ、気を許したら負けなのだ。
「……なに」
重い視線を払うように問いかける。すると木崎は、別に、と素気なく答えるも、どこか気まずそうに顔をそむけて顎をしゃくった。
「てか、いい加減それ……服、どうにかしろよ」
「……服……?」
視線を落とすと、見慣れた薄い胸板が視界に広がる。
ネクタイが緩んでいて、しかもワイシャツのボタンがはずれ全開になっている。そのうえ、はだけた服の隙間からわずかに乳首が顔をだして……。
「――わわっ。な、なん、なんで……っ」
一気に頭が沸騰し、みるみると体温が上がっていく。暖かく整えられた室温に加え、キスばかりに気をとられていたせいで、おのれの身なりは二の次だった。
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