ーよんー

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「あーやだやだ。野良猫が(いろ)()づきやがって。おまえごときがこの俺を(さそ)ってんのか?」 「――(ちが)っ……」  (ほど)けたネクタイを超速攻で()めなおす。()いでシャツのボタンに手をかけた。けれど(あせ)るほどに気が()いて、指が()()く動いてくれない。 「……どんくせえ」  耳にタコの毒舌は()こえぬふりでやり()ごす。()ずかしいやら(なさ)けないやらで、(あき)れた視線を一蹴(いっしゅう)する勇気もない。 「つーか……おい、(さき)にネクタイ()めてどうすんだよ。順番(ぎゃく)だろうが。こらチビ、()いてんのか? だからそれ一回とれって……」 「――うるさいなっ! 僕は、い、いつもこうなんだよっ!」 「あーくそ……っ。見てるだけで苛々(いらいら)するぜ」  ()(ざき)はすいっと立ち上がり、ベッドの上から(はな)れたところでぼそっと言った。 「(がん)()なやつ。おまえ、本当に可愛くねえな」  つきん、とわずかに胸が(きし)んだ。  ホモでガリ勉の貧乏人。そのうえ可愛げのかけらもない……。 「……当然だろ。僕、男なんだし」 「男だって多少の愛嬌(あいきょう)は必要じゃね?」 「…………あんたに言われたくない」 「あっそ」  ()(まん)げな口ぶりだが、その先の反論(はんろん)は特にかえってこなかった。  急にしんと静まりかえり、なんとなくそわそわとする。()(ざき)の行く手を目で()いながら、室内をながめ見た。やけに広い部屋の中、大きなテレビが置いてある。その前には高級そうな革張りのソファーが()えられていて、()(ざき)は僕に()()けたその上へと腰をおろした。  ……気まずい。  そう思えるくらい気持ちが()()いたのは、距離ができたからだろうか。そこで僕はその後頭部に()かって、ためらいがちに声をかけた。
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