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ーよんー
「ん……ぅ……う? ん? あ、れ……?」
微熱をまとった息苦しさ……ゆっくりと細く目を開けた。長いあいだ視界を閉ざしていたせいで、部屋の明かりがひどく瞳に突き刺さる。
目を覚ましたということは、僕は今まで寝ていたということだろうか……?
眩しさに瞼をきつく閉じ直し、散漫した意識を模索すると徐々に記憶が甦ってきた。
「……僕……」
おかしい。確か道端で倒れこんだはずなのに……。
……ここ、どこだろう。
柔らかな感触がふわりと身体を包んでいて、なのに口元だけがやたらと湿り気を帯びている。唇に残る違和感……そういえば、夢の中でなにか食べていたような……。
垂らしたよだれを拭おうと腕を上げると、目の前にある大きな壁にぶつかった。
あったかい。人間の、身体……?
虚ろながらも重い瞼を持ち上げる。するとぼやけた視点にくすりと笑ったアップの顔が映りこみ、その暗影がさりげなく僕の唇を掠め、離れていった。
「よう。やっと起きたな。野良猫が冬眠したかと思ったぜ」
まるでその味を確かめるみたいにぺろりと口をひと舐めして、くくくと喉を鳴らす男は木崎だった。どう見ても、木崎誠志郎にしか見えない……。
「おい、なにか言えよ。まさかまだ寝てんのか?」
木崎は向き合う身体をふたたび寄せると、僕の瞳を無遠慮にのぞきこんだ。僕は呼吸をするのも忘れるくらい、目の前をじっと見つめる。
口元に触れた感触……この男、今……。
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