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だがしかし、甲斐がその後隼人と言葉を交わしたのは、三年も経った頃の事だった。何度か顔を見る事はあったけれど、隼人に付いていた使用人は、甲斐の姿を見るとそそくさと隼人を連れてどこかへ行ってしまう。
そのうち受験を控え、勉強も忙しくなった甲斐が隼人への興味を失っていった事は言うまでもなかった。
◆ 二十二年前 ◆
中学受験をあっさりとクリアしたものの、進学して増々勉強に忙しくなった甲斐は、隼人の事などすっかり忘れていた。
だからその日、家へと帰った甲斐は子供に出迎えられた事にそれはそれは驚いたのである。
「お…おかえりなさいませ…、甲斐様…」
たどたどしい言葉で迎えられた甲斐は束の間唖然とし、どこか見覚えのあるその顔に、ゆっくりと口を開いた。
「はや…と?」
「はっ、はい…っ。あの…はじめまして…甲斐様」
ぺこりと頭を下げる隼人は確か、甲斐よりも五つ年下だと聞いたような覚えがある。つまり隼人は現在八歳になるという事だ。
甲斐が知る限り、隼人が学校に通っている様子はなかった。”病気”だと、そう雪人から聞かされて甲斐はこれまで疑問に思う事もなかったのである。
―――病気、治ったのか…。
関りはなくとも、快復したのだと思えば安堵は込み上げた。良かったと、素直にそう思った甲斐は僅かに微笑んだ。
「躰、もうよくなったんだ?」
「えっと…はい…。学校には…行けませんけれど…」
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