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俯く隼人はどこか寂しそうで、けれど学校で友達を作れないのならそれもまた仕方がないかと甲斐は思った。学校へ行けば隼人は、甲斐と違って遠巻きに眺められる事もなく自由に友達を作る事が出来るのだろうと。
だからといって、甲斐には嫉妬や羨望はまったくない。既にこの時の甲斐は自身の立場を充分すぎるほど理解していたし、またそれに自負を抱く程度には、須藤家の跡取りとしての自覚が芽生え始めていたのだ。
「そうか。隼人は学校、行きたい?」
「いっ…いえっ、そういう意味じゃなくて…っ」
「今は無理でも、そのうち父上が行かせてくれるよ。だから早く元気になりなね?」
そう言って、甲斐は自室のある二階への階段を上ろうとしたのだが…。ちょうど仕事の話でもしていたのか、玄関ホールのすぐ横にある応接室から雪人が顔を出した。
「ああ、甲斐。帰ってたのか」
「はい。ただいま戻りました」
「丁度いい。隼人なんだが、中学から受験させようと思っていてな。時間がある時にでも勉強をみてやりなさい。それに隼人、ゆくゆくお前には甲斐をそばで支えてもらおうと思っている。勉強だけじゃなく、ゆっくりでいいから色々と甲斐の周りの事を覚えていきなさい」
「はっ、はいっ。旦那様…」
委縮するように返事をする隼人に、だが雪人は声をあげて笑うとその小さな頭をくしゃくしゃと撫でたのである。
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