会長様は多忙につき。

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「旦那様は、ちょっと堅苦しいな。お父さん…は無理でも、せめて名前とかにしないか? 雪人だよ。ほら、言ってごらん?」 「ゆ…ゆきひと…様…」 「いい子だ隼人」  雪人に頭を撫でられる隼人の表情は、だがどこか歪にゆがんでいるように甲斐には見えた。何かを我慢しているような、苦しそうな、そんな顔をしているように思う。  ―――何だ…?  最初は、嫉妬かと、そう思った甲斐だ。甲斐には雪人に頭を撫でられた記憶など殆どない。少なくとも物心つくようになってからは、たった一度きりだった。だがそれも、隼人がやってきたあの日、弟のようにちゃんと面倒を見ると、そう言った甲斐を雪人は褒めるように軽く撫でただけの事である。頭では理解していても、心の中では隼人を羨ましく思っているのかと、そう甲斐は思ったのだ。  結局その後すぐに、雪人は仕事で居なくなってしまい、それをきっかけに甲斐も自室へと戻った。  だからこの時甲斐は気付かなかったのだ。自分の目に狂いがなかった事を。隼人が”病気”だと言われていたその理由を甲斐が知るのは、それから七年後の事である。   ◆ 十九年前 ◆     
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