会長様は多忙につき。

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 概ね穏やかに月日は流れていた。隼人が受験を翌年に控える中、雪人に連れられた先で甲斐は二人の男と出会う事となった。数日前に届いた脅迫状は甲斐の誘拐をほのめかすもので、『またか…』と、そう思った事は確かだ。  十六にもなれば自身の置かれた立場などとうに把握していたし、”帝王”と呼ばれる父の唯一の弱点であるという自覚もある。だから甲斐は、取り乱すような事もなければ至って平静を装っていた。  食事の場で甲斐が紹介されたのは、一人は匡成の息子で、名を辰巳一意(かずおき)といった。もう一人は、フレデリックという名のフランス人だ。どちらも年齢は二十九歳と甲斐よりも一回りも上だった。その上二人とも長身で、辰巳でさえも百八十後半はあり父親の匡成が小さく見える。もちろん、雪人も。  ―――ヤクザ…なんだよな…?  子供の頃から知っている匡成が、いわゆる極道であると甲斐が知ったのは昨年の事だ。十五歳。もう分別もつく年だろうと言って雪人は、仕事上の関係者にも甲斐を後継者として紹介するようにもなっていた。  当然、父親に認められて甲斐が嬉しくないはずはない。だがしかし、それと同時に甲斐は、今回のような脅迫状や、未遂ではあるが幾度か誘拐事件に遭うようにもなった。     
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