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学校への送迎はもちろんの事、おちおち出掛けるにも護衛が付いて回る鬱陶しさは半端ではない。だが、それも致し方のない事ではあると半ば諦めにも似た気持ちでいる甲斐である。それよりも甲斐にとっては、雪人の足を引っ張ってはいけないと、そればかりが頭を占めている。
―――父上は何故、こんな時期に食事会なんて…。
しかも雪人は、迎えに来た匡成とその運転手以外の護衛を今日はつけていなかった。甲斐が訝るのも無理のない事だ。
食事中、会話をしていたのは雪人と匡成で、食事が終わった後に取り残された甲斐を含む三人の間には気まずい沈黙が流れた。そもそも名乗った以外に言葉を交わしてはいない。
「あー…、まあ何だ、取り敢えず俺らも出ねぇか?」
「そうだね。いつまでも居座る訳にもいかないし。甲斐君は、どこか行きたい場所はあるかい?」
「別に行きたい場所などない」
持て余している事がありありと分かる態度で話し掛けられ、甲斐は素直に答えただけなのだが、どうやらそれはこの二人にはあまり好ましくなかったらしい。口調がどうのと言われ、説教じみた台詞を吐かれた甲斐は、いつの間にか言い合いを始めた二人に大人げがないものだと小さく鼻を鳴らした。
唐突に話を振られて『自分には関係ない』と応えれば、『子供だねぇ』と、嘲笑うかのようなフレデリックの言葉が返って来て甲斐は苛立ちを募らせる。
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