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だが、聞こえてきたのは優しいハヤトの声で。
「泣きながらいう事がそれか? まったく強情にも程があるなお前は」
ふと視界が陰った気がしても顔を上げられずにいた甲斐は、急な浮遊感に躰を抱え上げられたことを知った。
「ッ…」
「コーヒーを飲みたかったんだろう?」
同じ声で嫌いだと言うくせに、今のハヤトの唇から流れ出る声はどこか優しくて、心臓を鷲掴みにされたような痛みに甲斐は襲われる。ぼろりと、新しく大粒の涙が眦から零れ落ちた。せっかく決意を固めようと思ったのに、揺さぶるような事をしないで欲しい。中途半端に優しくされても、どうせ突き離される事など甲斐には分かりきった事だった。
ソファの上に降ろされ、隣にハヤトが腰を下ろしても、視線を上げることが出来ずに居る甲斐の耳に優しい声が流れ込んだ。
「甲斐。オレはお前のマンションを出るつもりはない。隼人は、そんな事を望んではいないだろうからな」
「違うんだ…。俺は、お前にこれ以上…負担を掛けたくない…」
「ならお前は、その為なら隼人が傷付いてもいいと、そう言うんだな?」
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