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「隼人がそれで傷付くと言うなら、それも全部俺が癒すよ…。だからお前は、好きなようにしていいんだ…。俺と隼人の関係に縛られる必要なんて何処にもないだろ…」
もはや何が最善なのかなど甲斐には分からなくなっていた。本音を言えば、ハヤトと離れたくはない。けれど、面と向かって嫌いだ鬱陶しいと言われ続けるのも辛くない訳ではなかった。だがそれだって、甲斐よりも一緒に居るハヤトの方がストレスが大きいのだろうと思えば離れたくないと我儘を言う訳にいかないのだ。ハヤトの言う通り、辛い現状から逃げたくなっただけかもしれない。
様々な思いが甲斐の頭の中をめぐり、心を締め付ける。
ただひとつ言える事は、けっして『側にいてくれ』と、甲斐からは言えないという事だけだ。
隼人が傷付くと言われても、甲斐は、今目の前にいるハヤトにも傷付いて欲しくない。嫌な思いをさせてまで自分に付き合わせる訳にはいかなかった。
◇ ◆ ◇
翌月になっても、未だハヤトは変わることなく甲斐のマンションに一緒に住んでいた。ただ、あの日以降僅かに、ハヤトの態度が軟化したような気がする甲斐である。
あの晩ハヤトには断られたが、甲斐は一応マンションを一部屋購入した。仕事の合間に他の秘書から届いた大判の封筒は、甲斐の執務机の抽斗に仕舞われている。
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