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「その点に関してはオレがたっぷり恩を売っておいたから安心しろ。あくまでも温情であって、SDIとしては必要ないという事は伝えてある」
ニヤリと、綺麗な顔をあくどく歪めるハヤトに甲斐は小さく首を振った。
「一応確認しておくが、人格が入れ替わってるなんて勘付かれるような真似はしてないだろうな?」
「オレを誰だと思ってる」
さらりと言い放つハヤトに、甲斐は思わず笑ってしまう。何となく一瞬、隼人が自信満々に胸を張ったらこんな感じだろうかと、そう思えたのだ。
―――ちょっと可愛かったな…。
ようやく上手く付き合うための糸口が見えたような気がして、甲斐は笑みを深くした。
「そうだな…。俺が騙されるくらいだ。気付く奴など居るはずもない」
そう言って甲斐が笑えばハヤトは僅かに首を傾げ、今にも鼻で笑いそうな雰囲気を醸し出す。それが、この時の甲斐には途轍もなく優しく見えた。
◇ ◆ ◇
甲斐が妙な噂を耳にしたのは、翌週にバレンタインデーを控えたある日の事だった。なんと、ハヤトが最近落ち込んでいるようだというのだ。
とは言えど、甲斐の前でのハヤトは相変わらず非の打ち所もないほどで俄かには信じられないのだが。
―――俺の前以外では隙を見せてるって事なのか?
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