プロローグ

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窓際に席のある石井真実(いしいまみ)は、現代社会の授業中にまったくやる気の無さそうな顔で窓の向こう側に見える街並みを眺めていた。 このやる気の無さは真実本人の興味によるものもあったが、この話を聞けば、誰がどう考えたとしても現代社会の教師のせいだと誰もが思うことだろう。 この教師の特徴は、60代後半位の小太りで頭は白髪のオールバック、それにべっ甲縁の眼鏡を掛けている。とても気弱そうな感じで、大きな鼻に垂れ目の眼鏡を総合して見ると、フクロウか或いはコアラにそっくりだ。愛嬌すら感じさせる。 あだ名はポアラ。 最初の内はコアラだったのだが、いつの間にか何故かポアラになっていた。 だが、見た目に愛嬌のあるこの男には重大な欠点がある。それはその男の授業っぷりだ。 その教え方ときたらこうだ。 チャイムが鳴り、まだ休み時間の名残で生徒達が雑談に夢中な頃にその教師はそーっと教室に入ってくる。気付かれないように、わざとやっている事なのかどうかは誰にも分からないが、生徒達は気付かず雑談を続ける。 教師は生徒達に目もくれず教科書とチョークを持ち、黒板一面に教科書とまったく同じ文章を汚い文字で書き続ける。それを書き終えるのが、いつも授業が終了する10分前だ。
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