第3章 水妖記

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セレ達は北上し、いよいよイズムルトに入った。 イズムルトとは現地の言葉でエメラルドの事だ。 ルスルスの密林とはまた違った緑色に覆われた国だ。森と山の合間に町や村がある。 「ロストークに似ているな。」 針葉樹の森を見て、セレが言った。 「そうね。落ち着くわ。」 ピアリもロストークで慣れ親しんだ空気を感じた。 程よく人の手の入った森は不気味さは無かった。その中を抜ける道も遊歩道の様で、心地よく歩くことができた。 最初に見えた集落は農村だった。 もう初冬という時節だが、果樹の収穫に忙しそうな人々がいた。 「あっ!セレ、りんごだわ!」 ピアリが指差した。 「本当だ。久々だな。」 ロストークを出て以来、初めてのりんごだ。セレも久しぶりに味わいたいと思い、分けてもらおうと声をかけてみた。 「こんにちは。」 声が届いた数人が振り返った。 「こんにちは。見かけない人だね。」 答えたのは中年の女性だった。 「旅の者です。見事なりんごなので分けて頂きたいと思って声をかけました。もちろんお代は支払います。」 「こっちのだったら、タダでいいよ。」 女性は足下の籠を持ち上げて中を見せた。
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