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「色っぽい? こんな格好をさせることをおかしいと思えないのか」 「目にした感想を素直に口にしただけです」 オロオロするばかりの義兄さんは役に立たちそうにない。負けん気の強い井原さんが止めればいいのに応戦するから、ヒヤッとする。どうしよう。不安になって、九鬼さんへ膝で躙り寄っていくと 「テル。茶を頼む」 ポンと、ぼくの頭に手を置いて笑った 今から義兄さんが九鬼さんに遊女の格好を説明するし、九鬼さんも心配するなと言う。実際、白い歯を見せ笑う九鬼さんの機嫌は良さそうだ。井原さんはと見れば、畳をじっと見据えている うーん? 喧嘩はなさそうかな。九鬼さんの変化に首を傾げつつも、ぼくはお茶を入れにキッチンへいく。我が家のお茶は評判がいい。とりわけ、茶葉に金をかけてるわけではない。安い焙じてない番茶を購入し、焙じているのだ。お湯は鉄瓶で、気長に、柔らかな火にかけ沸かす。その間にフライパンに紙を敷き、茶葉を焙じるのだ 「よし、いい香り」 焙じた茶葉を急須へ移し、鉄瓶の熱湯を注ぐ。四人分のお茶を入れ、お盆を手に書斎の襖を開けたら 「お前は話のおおよその筋立てだけ考えてとりあえず、書き始めてしまうタイプだということは分かっているつもりだったが、今回は行き過ぎだ。遠慮というものがない。少しの節度や良識を兼ね備えた者ならば初な義弟に遊女の真似事をさせることも、視姦の生け贄とすることもしないだろう。穢れを知らない未熟で艶めいた肌を人前で曝させるという暴挙に、お前の良心は痛まないのか」 息もつかずに言葉を発しているのは九鬼さんで、部屋の主である義兄さんは膝を揃え項垂れていて、井原さんはバツの悪そうな顔で横を向いていた
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