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「ある日、大見世へ行った男は太夫の父親が借りた金で遊女を買い、遊ぶ姿を太夫が黙って見ているのを目撃する。冷たく凍えた眼だった。太夫は父親と男を同列に見ている。そう気づいた男は太夫の幸せとは何かを考え始め、店の奉公人にも優しくなり、人としての評判をあげていく。いつしか、その評判に納得がいくと思うほどの優しさに絆され、太夫の頑なに閉ざした心が溶けていくという物語だ」 義兄さんがお茶を飲む。語っていたから喉に渇きを覚えたのだろう。腕を組み、眉間に縦皺を寄せていた九鬼さんが長い、ため息を吐き 「そこまで構想を組み立てておいて、テルを遊女に仕立てる必要があるのか」 もっともな疑問を投げかける 「と思うだろう。必要なんだな、それが。昔からモテていた僕は恋の駆け引きをしてなければ、苦しんだこともない。出会った瞬間この人だ! ビビッときたゆり子とは結婚したしなあ」 義兄さんがニヤニヤ笑う。胸くそ悪い自慢をした義兄さんを見据え、腰を浮かせた九鬼さんが 「流石です。先生! その顔で、才能に恵まれ、運まで味方としてるのですから完璧です」 身を乗り出して拍手する井原さんに気勢を殺がれたのか、舌を打ち、座り直した
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