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ぼくは玄関で立ち尽くしてる なぜか? 耳を疑う頼みごとをされたから 誰に? 義兄さんに 義兄さんというのは、顔はいいが男としては頼りない、田んぼを守る風化した案山子ほどに細身の、肉と筋肉のない40才男。でも、金と才能と身長だけはある男とゆり姉が結婚したのは半年前 「疲れてるのは分かってる。だから寝てていい、こっちで好きに手足は動かすから」 娼館に売られた子でもあるまいし、私立北見高校生徒会副会長の責務を全うすべく、真新しい制服に身を包む新入生を迎える入学式で愛想笑いを続け、疲労困憊して帰宅した途端、いきなり吉原遊郭の話を書くから着物を纏い横たわれ言われても、はいそうですかと頷けない 悉皆屋(悠々堂)を経営する両親から、売れ残りの振り袖を譲って貰うのは店を建て直し、長男夫婦と両親が暮らせる二世帯住宅まで新築した義兄さんには容易いこと。欲しいと言えば、山と持ち運んでくるだろう 女の子みたいな長い睫毛を揺らし、細くしなやかな指で冷たい文章を書く義兄さんは小説界で名の知れた文士だと思っていた。いつ、官能小説を書く気になったのだろう。いや、ぼくに頼むということはボーイズラブ系統かもしれない。どちらにしても、両親と長兄はあっさりとぼくの身を義兄さんへ 『煮るなり焼くなり好きにしていい』 言って差し出してる。あの人たちは義兄さんの書く小説のファンだ。息子がモデルと聞き、協力しない筈がない
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